住民主体の移動の環境づくり


玉川町会 中村輝之さん 二子玉川商店街 橘たかさん プレイス 福永順彦さん


インタビュー・撮影・編集
磯村歩
2014.03.24

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2014年2月8日、東京都世田谷区玉川地区(玉川三丁目の一部と玉川四丁目全域)に「ゾーン30」が導入されました。「ゾーン30」とは、生活道路における歩行者などの安全な通行を確保するため、区域(ゾーン)を定めて時速30kmの速度制限を実施するとともに意識啓発などの交通安全対策を図るというもの。ここ玉川地区での導入は同区では初めて、また“住民発”で制定に至るのは東京都初だという。

 

QUOMOは、“地域と共に”新しい移動体験をつくり、新しい街づくりにつなげようとする取り組み。そこに住まう人々の思いにどう寄り添っていくのかがとても大切。「ゾーン30」という移動環境を住民発で進めた本事例は、私たちの思いと共感するものです。今回は、この導入に携わった玉川町会事務局長 中村輝之さん、二子玉川商店街振興組合理事 橘たかさん、場所づくり研究所 有限会社プレイス 代表取締役 福永順彦さんに、住民発のプロジェクトがどのようにして生まれ、今後、交通という街づくりにどう取り組んでいくのかを伺いました。

 

二子玉川で新たな交通安全対策「ゾーン30(さんじゅう)」が始まりました(世田谷区役所)

http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/107/159/778/h26/d00131635.html

世田谷区内発 指定区域内の車速・30キロ規制へ 玉川町会 ゾーン30開始セレモニーのご案内(玉川町会)

http://tamagawa30.info/file/release.pdf

 

—— 導入の経緯は?

 

中村さん

 もともとは2011年に「二子玉川商店街」が活性化のために地域住民のアンケートをしたのがきっかけです。いろいろ周辺環境を調査(交通実態調査等)をしていくなかで、30km/h速度制限の道に囲まれたエリアの中の狭い生活道路に、もう事故がないのが不思議くらいすごいスピードで車が通り抜けている実態がみえてきたんです。二子玉川は東名高速、第三京浜、環状八号線に囲まれていて渋滞の抜け道として車の通行量が多い。そんな車が60km/hで走っている。これはもう商店街だけの問題じゃなくて、街全体の問題として「玉川町会」も加わって取り組んでいくことになりました。

 

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導入を中心となって推進した玉川町会事務局長 中村輝之さん

 

橘さん

 交通の実態調査に関しては、寺内義典先生(国士舘大学理工学部准教授、専門は交通工学、都市計画)、稲垣具志先生(成蹊大学理工学部助教、専門は都市交通計画、地区交通計画、人間工学)と同大学の学生さんにお願いしました。寺内先生とはお仕事でご一緒していたのですが、たまたま玉川地区の地図を一緒に見ていた時に「ここは交通に関する課題が多いように思います。ぜひ調査させてもらえませんか?」と。そうこうしている内に「いや〜、来年度の研究テーマとして学生と一緒に来ますから!」って言ってくださって(笑)

 

 生活道路に入った車の車種やナンバープレートなどを抑えて、それがどこから入って、どれほどのスピードで、どこに出て行くのかというのを全部抑えた膨大な調査をして頂きました。また地域の方々一人一人にアンケートをとって、地域の方々自身もスピードを出していることや、小学生がヒヤッとした出来事などもまとめたり、考えられるいろんな角度からのデータを集めていきました。そうした中、寺内先生が委員会で生活道路のゾーン対策マニュアルを検討されていて。

 

中村さん

 どうやら「ゾーン30」っていうのがあると(笑) それで、橘さんと僕とで虎ノ門で開催された「ゾーン30」の講習会に行ってきました。他の参加者をみたら県や市などの職員が多かったかな。一般(玉川町会、二子玉川商店街)で参加してたのは、僕らくらいだったと思う。「ゾーン30」って、基本的には警察や行政などから導入プランが地域に降りてきて、そこでいろんな調査や具体的に推進するための協議会を作っていくようなのだけど、僕たちの場合、あくまで住民発で警察や行政に協力要請をしながら進めていきました。

 

 

—— ご苦労された点は?

 

中村さん

 予算がね、大変だったと思う。「玉川町会」の中に地域の清掃活動や違法駐輪自転車の撤去などを行う「二子玉川地区交通環境浄化推進協議会」というのがあって、これも交通のことだからとこの協議会が主体になってやることになった。それで玉川町会からの助成金を中心に、商店街の方にもいろんな活動の助成から予算をとって頂いたり、いろんな工夫をしながら予算を捻出していった。ただ、それを一緒に進めてくれる人々がいたことが大きい。世田谷区(東京都)の方でも初めての事例ということで、同区の玉川総合支所街づくり課がすごく力を入れてくれたし、警視庁や玉川警察の方もやっぱり世田谷区初ということで力を貸してくれた。また寺内先生、稲垣先生、そしてその学生たちなどすごく頑張ってくれた。

 

 大学でやってもらった調査というのも、研究の一環という位置づけにして頂いて、費用面ではかなりご無理をお願いしてしまったのではと思っています。また成蹊大学、国士舘大学の子も、皆、卒論がこの「ゾーン30」導入における活動なんですよ。それを僕ら関係者に発表してもらって、「これじゃちょっと弱いぞ」とかつっこみいれたりしてね(笑)。

 

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「ゾーン30」導入を告知するチラシ

制作:玉川町会、二子玉川地区交通環境浄化推進協議会、二子玉川商店街振興組合

 

 

—— 多様な方々との関係をちゃんとつくっていらっしゃる。

 

橘さん

 中村さんが中心となって、こうした関係作りをされているっていうのが一番大きかった。これから街できちんと取り組むと決めた時に、行政の人たちを呼んでちゃんと話をする機会を設けたり、そこで、街としての本気度を伝えて一緒にできるところを探そうよっていう姿勢を示してもらった。

 

中村さん

 同じ土俵に皆が立ってくれたから、すごくよかった。僕ら自身もやりやすかったよ。

 

福永さん

 行政側としても、区民の思いをなんとか実現しようという気持ちがあったように思います。どうやったら区として受けとめて実現できるかっていうことを、かなり区内で議論したと聞いています。

 

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場所づくり研究所 有限会社プレイス 代表取締役 福永順彦さん

福永さんは「玉川3・4丁目地区における安全安心ゾーン整備に向けたワークショップ」(以下参照)を

世田谷区から委託を受け運営された。

 

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 「ゾーン30」の入り口をどういう風に目立たせるか?などのハードの課題は当然あるのだけど、果たしてそれで住民が満足してくれるか? 効果は十分得られるのか?など気になる点も多かったように思います。ただ蓋を開けてみたら、ハードよりもむしろ、住民自身がどう取り組もうかということで活動が盛り上がってくれてすごく良かった。通常は、住民からハードの不満や要求が出てくるものなんだけれども、ここの取組みにおいては住民側からそうしたものがほとんど出てこなかった。主体的に取り組んでいるからこそなのだと思います。

 

 

—— こういう活動というのは、具体的な交通事故などがキッカケになるように思いますが。

 

中村さん

 それはなかったですね。先ほどお話した商店街の交通実態調査から見えてきたことが大きい。それに漠然とではあるけれども自転車のマナーとかがかなり社会問題化なりつつあった。玉川の街もご他聞に漏れず同じような問題を抱えていた。生活道路の安全をどのように確保するか。これって「玉川町会」だけで取り組んでもダメだし、商店街や、小学校のPTAや保育園などそういうのが一体になって街全体でやんなきゃいけないなあっていう思いはあった。だから最初から「ゾーン30」を目的としてやってきたわけじゃなくて、生活道路の安心安全をどう確保するかっていうのが大きなテーマとしてあって、その中の優先順位として「ゾーン30」が出てきたっていう格好だと思う。

 

 大きな動きとして2012年の10月に世田谷区長が「二子玉川100年懇話会」(玉川町会、二子玉川商店街振興組合、周辺企業などが集まる街づくりに向けた任意団体)に出席して「これはやりましょう」と発言されて以降、かなりサポートしてくれて予算をつけてもらった。これがやっぱり大きな原動力。ワークショップの開催等など、やっぱり「玉川町会」だけだと賄いきれるものではない。

 

 

—— もし他の地域から「市民発のゾーン30を実現したい」という相談を受けたら?

 

中村さん

 やはり裏付けとなるデータを持つこと。そして、それを地域の方に開示して、いろんな意見を導いていくこと。活動を進める人のエゴではなく、例えば目安として地域の6割程度の人の指示を受けながら進めるとうまくいくと思う。

 

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玉川町会、二子玉川商店街振興組合が地域で発行している「ふたこたまがわ通信」

生活道路の課題を平易な表現で伝えている。

 

橘さん

 そもそも「ゾーン30」の前に、なにを解決したいのかを考えることが大切。「ゾーン30」って今話題になっているけれど、結構ルールが厳しくて、例えばセンターラインのあるの道路で囲まれてなきゃいけないとか、中に40km/h以上の制限がある道路が入ってないといけないとか、交通の条件によっては「ゾーン30」そもそもができないということもあるので、ゾーン30ありきで動いてしまうのは危険かと。その上で、ゾーン30を目指すこととなったら、第一歩は、同じことを考えている人を2人、3人と集めて、少しづつ活動の輪を広げていくこと。そういうことが大切だと思います。

 

中村さん

 やっぱり「玉川町会」だけでやっていたらダメだったと思う。橘さんが商店街の理事という立場で商店街のことをまとめながら後方支援をしてくれた。そういう裏付けのある実務能力のある人が動いてくれていたから良かった。街の中で実際に動けるキーマンが必要で、頭数がそろっててもしかたがない(笑)。

 

福永さん

 行政とどう協働していくかという点で考えると、“やってもらって当然” “行政は何をやってくれるんですか?”という受け身の姿勢ではうまくいかない。行政としても当然、他の案件があるなかで、“必要としてるのはここだけじゃないんですよ”っていうような筋論みたいな話になる。やっぱり行政だって人が動かしているものだから、地域の熱意になんとか応えようという関係性になれば、エネルギーもそこに集中していくと思う。

 

 例えばトップダウンで導入するというのもあるかもしれない。でもそれだと、地域の人が自分達で何とかしようという気運は盛り上がりにくい。結果的に規制は作ったけど誰も関心を示さず、スピード抑制につながらない、ということになりかねない。意志のある地域の方々と一緒に進めるのが最終的にいい結果を生むんです。

 

橘さん

 結局予算をとってきてくれたり、一緒に考えたり、実働するのは行政の担当者なので、その担当者がいかに上の人に説明ができるか、そのための調査だったりとかそのための動きを示すことが大切ですよね。

 

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左から福永さん、中村さん、橘さん

 

—— これからの思いは?

 

中村さん

 1つは「ゾーン30」の指定を受けて、これからどうやって“魂を入れていくか”というのが大きなテーマ。「ゾーン30」を継続するためにまちの人、外の人って区別せず、どうやってその理解を広げていくかを具体的につくっていかないといけない。

 

 地域の方々と協力してチラシを配るとか、速度超過した車には「イエローカード」を出すとか、子どもたちの力も借りて夏休みに交通安全のワークショップをやるとか考えられるあらゆることをやって浸透させたい。あとは「ゾーン30」をきっかけに、この地域の生活道路の安心安全を定着していきたい。例えば、自転車のマナーなどに関しても検討対象を拡げていくなど、街全体でやっていきたい。

 

橘さん

 「ゾーン30」が目標なわけじゃないので。もうちょっと先のことを考えると、こうしたまちの安全のことに地域の6割程度の人が関わるようになって欲しい。更にはここに住んでいる人が、自分たちの道路のことについてものすごく詳しくなって、新しい住人に自慢出来るようになるといい。

 

中村さん

 あと、通りにも名前を付けたいね。「○○通り」っていえたら、住民同士での共有も楽だし、愛着もわくように思うね。

 

 

—— 本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 住民が主体的に取り組むことで、様々な支援者や共感者を呼び込み、プロジェクトが大きく前に進む。そして、それは“ハードを整備するだけで活用は進まないのでは?“という懸念を払拭し、活用が継続する仕組みの可能性を示唆しています。また、”あくまでゾーン30は1つの手段にすぎない“とする意識が、ありたい姿に向けブレることなく、プロジェクトの推進につながっている。QUOMOにおいても、こうした“思い”を軸に据え地域とのつながりを生み出しながら、新しい街づくりに取り組んでいきたいと思います。

 

 

プロフィール

 

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中村 輝之
玉川町会事務局長
浅草生まれの玉川育ち、地元の二子玉川小学校を卒業。社会人時代は秘書業務を筆頭に総務部門、財務部門等の業務に携わる。リタイアを契機に幼馴染の先輩に誘われ町会活動に参加。玉川町会の事務局長として町会の事業のすべての運営に関わっている。

 

橘 たか
二子玉川商店街振興組合理事
大学で都市計画を学んだ後、行政職員、まちづくりを経て、合同会社橘を設立。世田谷区をはじめ全国の住民参加のまちづくりに携わる。二子玉川商店街では、安全安心まちづくり担当理事として商店街の安全などに関する取り組み支援を行っている。

 

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福永 順彦
場所づくり研究所 有限会社プレイス 代表取締役
地域プランナーとして、ユニバーサルデザインのまちづくり、地域コミュニティの活性化、住民参加型まちづくり計画、ワークショップの企画およびファシリテーション業務など、主に行政のプロジェクトを多く手がける。

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