スローモビリティによるニューツーリズム

JTBコーポレートセールス
黒岩 隆之さん


インタビュー・撮影・編集
磯村歩
2013.12.11

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環境プロデューサーとして、電気自動車、電動バイク、電動アシスト付自転車等の地域実装に取り組む「株式会社JTBコーポレートセールス」(※)の黒岩隆之さん。観光産業が量を追い求めるものから、ある質的な変化が起こっている。そして、その変化を紐解くキーワードが“スローモビリティ”であり、それがひいては新たな街づくりにもつながるという。ゆっくりとした移動が、その地域の魅力の再発見につながり、その地域の中での交流人口を増やす。そして、それは新しいライフスタイルであるのかもしれない。黒岩さんのロングインタビュー、どうぞお楽しみください。

 

(※)JTBコーポレートセールス ホームページ

http://www.jtbbwt.com

 

—— 今までは団体旅行などの営業をされていた。現場で感じていたことは?

 

 ちょうど12、13年前ほどから、オフィスのセキュリティが厳しくなってきて、なかなか営業に入れなくなってきました。アポイントがないとダメになってきた。それまでは一ヶ月に一回、時刻表をお持ちするのがお客さんとコミュニケーションをとるきっかけだったんですが、ITの普及によって時刻表そのものの必要がなくなってきてしまった。又、JRの切符、航空券、出張の宿泊手配等も、JTBに頼まなくてもPCで簡単にフレキシブルに確保できるようになってしまったんです。(国内外問わず)

 

 そうなると、旅行をJTBに頼む必然がなくなってくるんです。結果、安ければいいっていうことで、見積もりも非常に厳しくなってきました。更には、旅行に関してお客様の方が詳しかったりすることもある。また、趣向を凝らした演出、例えば、倉庫を貸し切ってパーティーをやりたいという話があったとしても、我々からすると食中毒の問題とか、様々な責任の所在、またそもそも弊社と契約があるところしかお勧めできないなど、我々の範疇での提案しかできない。そうするとお客さんからしてみると「えっ そんなの出来ないの?」っていうことで、どんどん離れていってしまう。価格でいけば、ネット販売をしている他社さんの方が安い。更には、これだけ情報が容易に取れるようになると旅行会社に頼まなくても自分で全部出来ちゃいます。

 

 昔は数の力っていうのがあったんですよ。たくさん売れば、多くの信用コストが得られた。安く仕入れて、安く売っても、ある程度、収益を確保できたんです。飛行機のジャンボがどんどん無くなってきているように、ITを活用して効率的に座席の予約や販売をコントロール出来るようになれば、売れ残る席を、旅行会社向けに振り分ける、パッケージ旅行向けに座席を提供することがリスクになってきた。(スケールデメリット) そういうことが、その頃の営業として感じていたことですね。

 

 

—— 観光の質的変化が起こってきた?

 

 今、そもそも人がなぜ動くのかっていうことに立ち返って考えています。例えば沖縄に行く、ハワイに行くっていうのが目的だった時代から、ハワイに行って何をするのか、沖縄に何があるのかっていうのに、大きく価値観が変わって来た。昔は、例えば、「首里城」に行くとか「華厳の滝」を見に行くというわかりやすい形だったのだけれども、今はそうじゃなくて、写真を撮るとか、山に登るとか、どこどこの温泉に入って、どこどこのお酒を飲むとか、その土地における経験に価値を見出すようになってきた。

 

 結局、“そこに住んでる人が良しと思ってることを訪れた人も良しと思う” と。だから、住んで良し、訪れて良しの観光地域を作りましょうということを、今進めています。住んでる人にとってすごく居心地が良くて、そういうところに住むような形で観光出来るっていうのがあるはずだと。それがこれからの観光なんじゃないかと。

 

 何もミュージアム造る、スタジアム造る、テーマパーク造るっていう、それはそれでいいんですけど、そういうのって、ほとんど失敗しましたよね。成功してるのはディズニーランドぐらいかもしれない。定住人口が減る中で、その地域のインフラだったりとか、地域の様々なサービスが劣化していき、どんどんシュリンクしていく。それを交流人口で埋めるには、基本はやっぱりそこに住んでる人たちのライフスタイルというのものを皆さんに好きになって頂くというところが肝要になってきている。

 

 

—— ご自分の肩書きを「環境プロデューサー」とされている。観光と環境との関連は?

 

 そもそも人が観光で移動するってことは、環境に何かしら影響を与えるということですから。いかに環境を担保しながら観光を作っていくかというのは、観光の発展ためにも避けて通れない。またスイスのツェルマット(※)はエコであることが、その土地のブランディングにもなり、観光産業が成立している。例えば「エコツーリズム」などは、地元の人が、その地元の自然の魅力を見い出して、それを訪れることが観光になっている。そして、その地元の人と一緒に食事をしたりとか、そういう地域にある生活を体験することが観光となっている。

 

(※)スイス ツェルマット

スイス・アルプスの登山やスキー場でよく知られている。地域経済のほとんどは、観光業に依存しており、街の職業の約半数はホテルまたはレストランに従事している。また、環境保護の観点から内燃機関自動車の乗り入れは禁止され、街内の交通は鉄道、馬車、電気自動車に限られている。参照元:Wikipedia

 

 

—— 新しい観光づくりに、どう取り組むのか?

 

 地域との関わり方を変えてかないといけない。要するに、一足飛びに収益を確保するような取組み方ではなく、地域とどういう風に新しい関係性を作っていくかっていうところが、大きな壁でもあり、可能性です。作られたものをパッケージとして代理販売するのではなく、地域と一緒に作るしかないんです。地域のNPO法人など多様なステークホルダーと連携をとるなど、そこに入っていって一緒に創っていく。今、そういう考え方に沿って、商品構成をゴロっと変えようとしてます。

 

 例えば、東京都内の交流人口って7億人(通勤含む)って言われていて、この7億の交流人口に対して、都内での楽しみ方をちゃんと創っていけばビジネスとしても大きな可能性がある。例えば、家と仕事場の往復だけじゃなくて、途中でどこかに立ち寄ってというのをきちんと創っていく。そういうものを創りだしていけば、千円のものでも7億人に売れば、ものすごい金額になる。

 

 

—— 職場に行って帰って来ただけだとつまらない一日だったのが、途中で誰かと挨拶を交わしたりとか、子供との触れ合いがあったかどうかで、その日の輝きが変わってくるかもしれない。

 

 築地とかだと声をかけられるけど、普段、そうそう声をかけられることはない。そこで街づくりの一環として地元の商店の方々に「お客さんに声をかけていこう」というのをやったことがあります。そして、そういったものを子どもたちにも体験させる。声を出して、これ売ってみて、というのをやってもらう。それを修学旅行に組み入れて、人と人のつながりを作っていく。

 

 僕ら“プライスレス“ってよく言ってるんですけど、例えば10万払う人もいれば1円たりとも払わない人がいるようなもの、そういう人によって価値観がかわるものに価値があるんじゃないかって思っています。そうしたものを生み出すためには、いろんな価値観を認め、多様な人たちが、いろんな分野でいろんな商品をプロダクトアウトしていくっていう世界を作っていかなきゃいけない。

 

 

—— 御社サイトに「ニューツーリズム」を「充電の旅」と称している。電気自動車の活用によって新しい観光が生まれる?

 

 今の電気自動車って、A地点からB地点に効率よく速く移動するのにあまり適していない。長距離移動する時は、充電場所を考慮してドライブプランをたてなければいけない。電気自動車って乗り物としては基本的にスローな移動手段なのかなと思っています。

 

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充電課金認証カード『EV・PHV充電スタンドカード「おでかけCard」』https://www.eco-odekake.com

充電するためだけにスタンドに立ち寄るのではなく、そこに様々なサービスを織り込むことで“立ち寄る楽しみ”を提案

 

 

 ただ逆に、充電場所に立ち寄ることを楽しめるようにならないかと思っています。ここに今までとは異なる新しいツーリズムが生まれる可能性がある。A地点からB地点を最短でいくのではなく、A地点からB地点を充電というキーワードで、自分の趣味趣向に合わせて組み立てていく。目的地に行ってなにかを楽しむというよりも目的地までの過程を楽しむ。そういうことが電気自動車だったりだとか、超小型モビリティ(※)みたいなものだとできるんじゃないだろうかと。そうすると、渋滞などでいつも我慢するだけの移動とは大きく質が変わってくる。

 

 例えば、今日の渋滞とか天気予報みたいなのでルーティングが毎日変わってもいい。今日は史跡めぐりの気分だとか、今日はグルメな気分だとかで、毎日毎日ルーティングが変わるナビゲーションがあってもいい。そういうツールとしての電気自動車っていうのはあるんじゃないのかなと。だから充電する旅っていうのと、ニューツーリズムっていうのは引っ付くんじゃないかと思っています。

 

(※)超小型モビリティ

自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人〜2人乗り程度の車両

出典元:「超小型モビリティ導入に向けたガイドライン」〜新しいモビリティの開発・活用を通じた新たな社会生活の実現に向けて〜 http://www.mlit.go.jp/common/000212867.pdf

関連コンテンツ:QUOMO スペシャルコラム「地域を救う、超小型モビリティ」

http://quomo.jp/mobility/spcolumn03.html

 

 

—— 「超小型モビリティ」の観光利用が進められています。

 

 今の「超小型モビリティ」はセミオープンのものが多い。きっと“匂い”が大切なファクターになってくるはずです。例えば、“匂い”に誘われて屋台の焼きそばをつい買ってしまったりすることがある。基本的に自動車を運転する時は“視覚”しか使っていない。聴覚も使いますが、今の車は非常に静粛性に優れているで、五感のうちの視覚しかほとんど使っていないはずです。“匂い”だったり、“音”だったり、“風”だったり、こういった五感で感じるその場の雰囲気は、観光を楽しむ上でとても大切です。

 

 また“自動車”で動くよりは“自転車”で動く、“自転車”で動くよりは“歩く”、これらによって世界観は変わってきます。スピードが落ちるっていうことはそれだけで見えないものが見えてくる。普段、自動車で通っている道でも、歩いたら「あれ、こんなところにお地蔵さんがあったんだ」とか、新しい発見が得られる。

 

 JR九州がやった電車の旅で、名所仏跡を通る時にものすごくスピードダウンさせるんです。通常のダイヤで動かしてるスピード50キロでいくところを10キロまで下げて移動する。そうすると歩いてるって感じになりますよね。電車ってものに乗りながら、歩きながら見てるのと同じくらいになる。通常の電車に乗っているだけでは気づかなかったものをいろいろ気づくことになる。同じ電車の中でありながらも、移動の楽しみ方が変わってくる。そして、そういうのが新しい価値として評価されている。

 

 スピードが速いと、どうしても情報量って少なくなっちゃうけど、ゆっくりになると情報量ってすごく増えると思うんですよ。花が咲いてるとか、お地蔵さんがあるとか、多くのことに気づける。こうして情報量が大きくなれば大きくなるほど、様々なことを伝えることができる。そうすると多分、全く違った街歩きとか街の楽しみ方ってできるんじゃないかと思うんですよ。

 

 その地域で「ここには何もない」って、よくおっしゃるんですけど、絶対何もないことはないんですよ(笑)何百年って人が住んできた歴史っていうのがありますから。そうでなくとも明治維新以降、少なくとも百年以上の歴史はありますよね。必ず何かあるはずなんです。

 

 

—— ゆっくり移動することは、エネルギーを大量消費する長距離移動を抑制する。結果的に、それはサスティナブルなライフスタイルにもなる。

 

 例えば、ゆっくりしたスピードでセグウェイに乗りながらゴミを拾うでもいい。ゆっくり街歩きをしながら、周囲に声をかけあうのでもいい。そうした“スローモビリティ“が街中で活用されれば、誰かがいつも見てるっていう抑止力が働いて、街の治安維持につながるかもしれない。

 

 スピードが速いと、人の関心を抑制してしまう。例えば、高速道路の脇やバイパスなどのトラックが走るところの信号機の手前ってゴミでいっぱいですよね。「捨ててあるからいいや」っていって捨てるわけなんだけど、ゆっくり移動する環境だと、人々の関心が及んで、ゴミが捨ててあったら気になるはず。そういう風に、街に対する関心が広がれば、住みやすい街になっていくはず。

 

 少子高齢化が進んで、お互いに助け合うっていうのは絶対に必要になってくる。それはめんどくさいとかめんどくさくないの問題じゃなくて、生きていく中で必要になってくる。特にコンパクトシティになればなるほど、そういう絆とかを増やしていかないといけない。そういった街づくりとしてスローモビリティを捉えていくのは、とても重要なことだと思ってます。

 

 

—— 本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 

 

プロフィール

 

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黒岩 隆之
株式会社JTBコーポレートセールス ソーシャルソリューション・地域交流推進局 プロデューサー(環境マーケット)
1993年 (株)日本交通公社入社、団体旅行新宿支店配属後、17年間、企業営業を担務(社員旅行、報奨旅行、視察旅行、イベント、販売促進 等)、2009年にエコポイント事業のJTB内の総責任者として、事業展開を行う。2011年 (株)JTB法人東京 マーケティング部に配属、環境マーケットにおける国策に 連動した、新たな事業領域の拡大と地域貢献(活性)を創造するプロデューサーに着任。2011年12月に(株)日本ユニシスと協業で、EV・PHVユーザー向けの充電課金認証会員サービス事業を起ち上げ、普通充電器(目的地充電網)の販売・設置事業を開始。2012年10月15日より会員サービス事業も開始する。同時に、EV・PHVを活用した、EVモビリティ観光活性事業も展開。環境省の地球温暖化対策事業(技術開発事業)で、鎌倉でのEVバイクのバッテリーシェアリング実証事業、地域における市場メカニズムを活用した取組モデル事業で、観光アプリを活用した京都クレジットの流通メカニズム構築実証事業なども手掛ける。

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