モビリティと人、そして街をつなぐ

znug design (ツナグデザイン)
根津孝太さん


インタビュー・撮影・編集
磯村歩
2013.07.08

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電動バイク「zecOO(ゼクウ)」、コンセプトカー「Camatte(カマッテ)」など、従来にないモビリティデザインで多くのメディアに取り上げられている有限会社znug design (ツナグデザイン)(※)の根津孝太さん。プロダクトデザイナーとして様々な分野で活躍しながら、ご自身は「単なるモノ(カタチ)のデザインはしない」とおっしゃいます。モノと人、人と人、そして人と街をつなぐことを理念に据えてご活動されている根津さんの思いとは? そして、そこから見える今後のモビリティと人との在り方とは? 根津さんのロングインタビュー、どうぞお楽しみください。

 

(※)znug design(ツナグデザイン) ホームページ

http://www.znug.com



—— 肩書きが「デザイナー」の他に「クリエイティブ コミュニケータ」とされています。


 これ、すごく強い思いがあります。そもそも、モノづくりは多くの方々が関わる現場で生み出されていますよね。僕は、そうしたモノづくりの現場で、その場の価値を高めていけるような人間になりたいと思っています。例えば、会議って本来もっともクリエイティブな場だと思うんですよ。そうした場を促進する役割としてファシリテーションというのがありますが、僕は、もっと強くメンバーとの関わりを持って、自分でもアイデアを出したり、さらにはメンバーからアイデアを引っ張り出してもらったりなど、どんどん新しいアイデアが導出されるような場を創り出していきたいと思っています。

 

 デザインを受注したら、もう少し前段階の企画フェーズから入れていただいて、そこでそのもののあらましや、そのものの本質などをチームで一緒に考えていく。ものづくりにおいて、チームを活気ある状態にしていくのはとっても大切で、そういう創造的な関わり(コミュニケーション)を生み出したいという思いで“クリエイティブ コミュニケータ”と呼んでいます。



—— そうした思いの背景は?


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トヨタ自動車「i-unit」


 トヨタ自動車のデザイナーとして働いている頃、「愛・地球博」(2005年日本国際博覧会)に出展した「i-unit」のコンセプト段階から関わっていました。ただ、チームのメンバーの1人がリスク回避の意識が強くとてもネガティブで、ことあるごとに僕の意見と対立していました。

 

 ただ、そのメンバーがかつて在籍していたのがお客さまからのクレームを受け付ける部だったということを知り、あくまで彼は自分の立場でいいモノを作るために、ユーザーに対して非常にポジティブだったんだということに気づいたんです。それから、そのメンバーに対する態度を改めると、次第に僕の思いも受け入れてもらえるようになって、そうしていくうちにチーム全体にポジティブな解決方法を模索していくムードが出来上がっていった。みんな言ってることは違うんだけど、いいモノを作ろうとする思いは共通している。異なる視点を尊重し、それが新しい発見につながる。こうしたことを、よりクリエイティブな方向に向かわせれば、すごい大きな力になるんじゃないのかと思ったんです。



—— モノの形だけでなく、人と人との“関係性のデザイン”を意識していらっしゃる。パーソナルモビリティにおいても、搭乗者を緩やかに外界につなげていくような“関係性のデザイン”を意識されていますね。


 今の大半の自動車は、外界と内界を完全にシャットアウトしています。移動する行為に、外界とシャットアウトされていて周囲と全くコミュニケーションする機会がない。「i-unit」のコンセプトは、搭乗者の身体性を拡張(周囲の様子を、より感じられるよう身体感覚を拡げる)することで外界とのつながりが生まれ、従来の移動とは異なる質的な変化を狙っています。



—— 多くのメディアで取り上げられた「zecOO(ゼクウ)」。「i-unit」で試みた身体性の拡張による周囲とのつながりについて、「zecOO(ゼクウ)」ではどのように捉えていらっしゃいますか。


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根津氏がデザインした電動バイク「zecOO」(ゼクウ) photo by Kazunobu Yamada


 バイクっていうのは、車に対して実用性は劣るかもしれませんが、ピュアな乗る楽しさがあるように思っています。バイクは搭乗者との一体感が強くて移動の気持ち良さを増幅させる。また、電気の感覚も非常に面白くて、トルクがモーターの回転数が低い低速度域からドーンと出るので、他では味わえない加速感を感じられます。電気特有の“キーン”っていう音も、ものすごく陶酔感がある。 “バイク”という乗り物、“電気”という要素、この二つが持っている心地よく移動させる要素は、人の身体性が拡張されたような感覚があると思います。

 

 またバイクって、人と乗り物がセットで見られているっていうのも大きな特徴ですよね。「zecOO」に乗る時は、コレ着て欲しいみたいなのがすごくあって、ブーツまで作ってたりしています。本当は革ジャケットやヘルメットもデザインしてみたいんだけど、いずれにせよ周囲の意識が乗っている人に向きやすいものですよね。外界との境界をゆるやかにつなげているように思います。

 特に「zecOO」は、まだ珍しいこともあると思うのだけれども、おまわりさんに「これ何?」って呼び止められます。「おまわりさん、そんなことで停めていいんですか?」って思うんだけど、でもなんかこういう風にコミュニケーションを促している要素があるのかもしれないですよね。



—— コンセプトカー「Camatte(カマッテ)」が発表されましたが、これもコミュニケーションを促している要素があると伺いました。


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根津氏がデザインしたトヨタ自動車のコンセプトカー「Camatte(カマッテ)」(電気自動車 2012)


 今の車って明らかに大き過ぎると思いませんか? 車の中で個人化を進めていて、自分のテリトリーに誰もいないっていう状態を車で作ろうとしている。いわんや車の外にもなかなかその自分の感覚がおよばない。仮にモビリティが小さくなってくると、自分の感覚がおよぶ範囲にいろんな要素が関わりだしてきて、そういう状態だと、周囲の人も関わりを持ちやすくなってくる。要は、コミュニケーションをとれる範囲に他者がちゃんと存在することが出来る。「カマッテ」は、通常はあり得ないくらい近い距離に3人が搭乗して、“コミュニケーションを取らざるを得ない“みたいな状態になっているわけです。そういう状態だと、中にいる人だけでなくて、外の人とのコミュニケーションも誘発する。たとえばおっさん三人でぎゅうぎゅうで乗っていると、それだけでなんだか笑えてくるし、周りの人たちもみんな笑顔になってくれます。(笑)

 

 こういうことって、そのサイズ感っていうのが非常に大きい。それは距離感とも言い換えられると思うんですが、適度な人と人の距離がデザインされていることと、あれぐらいのサイズが周囲に対して威圧感を与えないという意味で、ちょうどいい距離感をデザインしているんだと思うんです。こういう適度なサイズ感っていうのが、あの車の肝になってるんですよね。

 

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—— 国交省が進めている「超小型モビリティ」(2〜3人乗りの電動自動車)ですが、通常の自動車に対し構造がシンプルなため、欧州では地域の町工場で製造し地域で活用するなど、地域の活性化に一役買っています(※)。「カマッテ」は、“おもちゃ”として人がカスタマイズできる構造ですが、これは、人との関わりがデザインされているという意味で「超小型モビリティ」の本質を突いているようにも思います。

 

(※)関連コンテンツ QUOMO スペシャルコラム「地域を救う、超小型モビリティ」

http://quomo.jp/mobility/spcolumn03.html



 今の車のモノづくりというのは、非常に高いレベルで安全を担保してます。高速走行での対衝撃性能など多くの要件を満たさなければならない。でも使用速度域を下げていくとか、あるいは車重そのものを軽くしてくとか、そういったことをやっていくと安全基準の見え方が変わり、車のモノづくりも変わってきます。設計がマネジメントしやすくなるので、小さな会社が参入出来たり、お客さん自身がカスタムして楽しんだりという可能性が広がってきます。

 

 

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2013年トヨタ自動車から発表された「Camatte(カマッテ)57s スポーツ」。根津氏がデザインし、同年タミヤから発売されたミニ四駆(アストラルスター)のデザインをベースにしている。ボディの外板が57枚の「着せ替えパネル」で構成されており、色やデザインを簡単に変更できる。


 結局、昨今よく言われる日本人の車離れは、非常に高いレベルで効率化や安全性、利便性が追求された結果、お客さんに“触らないで”とか“構わないでくれ”というようにブラックボックス化が進んでしまい、車とお客さんとのコミュニケーションが途絶えてしまったことが要因の一つではないかと思っています。今の車というのは、宿命的にそういう状態になってしまっていて、そのような車も社会にとってもちろん大切なんだけれども、そうではないバランスもきっとあるはずです。

 

—— 根津さんは、モビリティというハードウェアのデザインをされてますが、その活動の本質は“モビリティと人がどう関わるのか?”の再構築だと感じます。もし、その文脈で街づくりをするとしたら、街と人との関係性をどうデザインされますか?


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 作り手と使い手の垣根を超えたような繋がり方がとても大切だと思っています。マーケティングって、つい使い手と作り手を分断しがちだけれども、もっと一緒にモノを考えたりとか、それぞれのプロフェッションを持ち寄って思いを共有したりとか、使い手なのか作り手なのかっていう事が関係ないという時に価値あるものって生まれてくる。製品やサービスを買って頂けるというのは、そのモノから滲み出る作り手の思いに共感するというコミュニケーションが生じていることだと思う。

 

 よく街づくりで“市民参加型”とかっていうけど、そもそも“市民参加型“っていう時点で市民と自治体と企業とを分けているような気がします。役人や企業人だって生活者だから、同じ目線で草の根的な動き方をしながら、街づくりをしていくと面白い。「良い街にしてこう」っていう目的意識は共有し、マスタープランを決めずに、変化を許容しながら、ディテールが全体を作ってくようなやり方がいい。僕もクリエイティブ コミュニケータとしてその場にいて、さらに当事者意識を持つために、僕もそこに住むっていうことをしながら進めていきたい。

 

—— クリエイティブ コミュニケータの根津さんにとって、モビリティだったり、人だったり、街だったりは扱う対象でしかない。


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根津氏がデザインしたアフタヌーンティーのLUNCH WARE


 誤解を恐れず極論すれば、何かを作るのは手段にすぎなくて、本当は良いコミュニティを作ると言う事が究極の目標かもしれない。良いコミュニティが出来てしまえば、必ずそこから良いものが生まれていくだろうし、もし不幸にも災害が起きてしまっても、良いコミュニティがあればきちんとそこからまた立ちあがっていけるかもしれない。逆に言えば、大体うまくいったプロジェクトって、同時に良いコミュニティが出来上がってるんです。

 

 モビリティは、僕にとってすごく大事なジャンルではあるんだけど、コミュニティを作る手段としてモノづくりを捉えると、もっと柔軟に手段を選びうると思っています。以前、お弁当箱のデザインさせて頂いたんですが、お弁当箱一個の方がそのコミュニティを作る力があるかもしれない。モビリティで言えば、実車よりもミニ四駆の方がコミュニティを作る力があるかもしれない。実は、形のデザインをしてくださいっていうお仕事はあまり受けないようにしていて、開発初期の段階からクライアントと一緒になってクリエイティブな場を作っていくようなやり方をした方が、うまくいっているように思っています。

 

—— 本日はお忙しいところありがとうございました。ぜひどこかでご一緒できるのを楽しみにしております!

 

 

プロフィール

 

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根津 孝太
デザイナー、クリエイティブ コミュニケータ
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車(株)を経て、05年(有) znug design を設立。トヨタでの代表作はコンセプト開発リーダーを務めた愛・地球博の i-unit。現在は自動車をはじめとする工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけながらミラノサローネや100%デザインなどで作品を発表。2011年 パリ Maison & Objet ‘now’ 経済産業省 JAPAN DESIGN+ 出展。グッドデザイン賞、ドイツiFデザイン賞、他多数受賞。

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