これからのモビリティと暮らし

次世代電動生活ラボ
深谷信介さん


インタビュー・撮影・編集
磯村歩
2013.04.01

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モビリティを移動支援という切り口だけで捉えると、その本質を見誤ります。博報堂の企業内大学 HAKUHODO UNIV. 次世代電動生活™ラボ(※)のリーダー 深谷信介さんは、電動化によるモビリティと周辺環境との新たな関係性が、私たちの生活を大きく変えるといいます。モビリティ、建物、そして街に関わる業界が、スマートシティの組成の中で再編されようとする今こそ、生活者視点を取り戻す必要がある。そして、内燃機関をもつ自動車の物理的な内部構成の制約から解放された電動モビリティは、スマートフォンのような全く新しいインターフェースを生み出す可能性を秘め、ひいてはそれは新しい産業振興の形にもなる。今回はモビリティによるこれからの暮らしの可能性について、多岐に渡るお話しを伺いました。

 

(※)【プロジェクト】次世代スマート技術が実現する未来を構想する 「次世代電動生活®ラボ」活動中

http://www.hakuhodo.co.jp/archives/reporttopics/8294



—— 「次世代電動生活ラボ」の経緯についてご紹介いただけますか?


自主的な活動を経て、2009年8月に正式にスタートしました。きっかけは某自動車メーカーの次世代の事業構築のお手伝いでした。ビジネスドメインを電動化においた時の技術、商品開発やビジネス・アライアンスなどを検討していました。電気自動車は外出先で充電する必要がありますよね。だから車を売るということと、インフラ整備を同時にやらなければいけない。様々な関連企業とコンタクトをとりながら、協力関係を作り上げていきました。

 

その時にふと感じたのが、“モビリティで街を変えられるのではないか“ということ。内燃機関をもつ自動車はガソリンスタンドに行く必要がある。でも電気自動車は社会基盤インフラとして最も普及している電気、つまりコンセントとプラグさえあれば充電出来るわけです。それは既に建物に整備されているわけで、車と建物が物理的にどんどんつながっていきます。関連した機能をきっちりと建物に埋め込んでいけば“スマートハウス”になり“スマートビル”になり、概念的には“スマートシティ”にも発展する。物理的に人と人、人とモノ、モノとモノがつながり、それが街の単位にまで影響を与えうる。そこには新たなサービスや商品の可能性が出てくるはずです。



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その時に私たち生活者側の視点でいくと、当然自分たちにとって一番最適な形で繋がって欲しい。企業は利益をどう確保するかという志向でつながるので、どうしても他社と競合になってしまう場合がある。例えば、蓄電池に関していえば、住宅メーカーは家側で持たないといけないという。でも自動車メーカーは、既に電動自動車に3日分の蓄電があるのだから車で持っていれば十分ということになる。こうして生活視点に立つと、異業種でありながらコンペティターになってしまう可能性がある。仮に全て装備されたものを買ったとすると、蓄電池を2個買ってしまうことになる(笑)

 

仮に2個買ったとしても、一部取り外しが出来るなど互いに融通できるものの方がいい。業界を越えた商品を、それぞれの業界で智慧を出し合って生み出していくということが必要になってくると思います。こうした考えを推し進める時には、生活者のくらし価値のようなものを基軸におかないといけない。ディマンドサイドからバックキャスティングでくらし価値とビジネス価値を捉えていく、それが次世代電動ラボなんです。

 

現在は、地方版スマートシティの実践と研究を早稲田大学(※)と一緒にやっています。それ以外は、この領域に関わる仕事を行政であったり、一般の企業の方々とご一緒させて頂いています。

 

(※)HAKUHODO UNIV. 次世代電動生活TMラボと早稲田大学 環境総合研究センター、 次世代まちづくりに関する共同研究プロジェクトを発足

http://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2011/10/201110181.pdf



—— 数社から電気自動車を建物の中に入れたライフスタイルの提案がありましたが


昔、馬は土間にいましたよね。外で使う移動手段である馬が、建物の中に入っていたわけです。充電という機能が建物に包含された時、モビリティはどこまでも建物の中に入っていける。

 

車って乗り降りのところがハードルが高いはずで、例えば、玄関先などの屋内で乗り降りできれば楽になるはず。床は汚れるでしょうが(笑) でもこうしたモビリティと建物の関係性を再構築していくと、建物側の有り様が変わるはずなんです。そして、モビリティ側からみると内と外という概念がなくなる、もしくはその境界線が限りなくシームレスになる。これはかなりエポックなことだと思います。



—— パーソナルモビリティを街づくりに活用しようという動きがあります。


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つくば市「モビリティロボット実験特区」より


セグウェイなど歩行空間で活用しうるパーソナルモビリティを考えた時、ゆっくりしたスピードで移動した方が移動以外のことに目配りがいきますよね。「QUOMO」がいう、人と人とのコミュニケーションや、ゆるやかなつながりを生み出すきっかけになる。更には“セミオープン”であることもキーだと考えていて、それらが相まって、よりよくコミュニケーションを誘発するはずです。あとはユニークなもの。興味をそそられる素敵なデザインであれば、それを触媒としてまた挨拶などのきっかけが生まれますよね。

 

大きなクルマを一人で運転していたり、サファリ砂漠を走れるようなスペックを持ったクルマが、東京23区の渋滞で詰まっていたり・・・。このあたりに気づきや戸惑いを感じ始めている人たちが現れてきています。今までの”カー”と呼ばれているカテゴリーじゃなくて、“モビリティ”というもっと多様な選択肢を生み出していくことで、生活者自身の意思が反映しやすくなっていくのではないでしょうか?



—— モビリティが周囲とのコミュニケーションを生むインターフェースを持っているとするならば、スマートフォンもインターフェースの革新があって普及している。モビリティをインターフェースという視点で捉えた時、どんな革新がありうると?


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自動車はハンドル、アクセルなどのシステムが100年近く培われてきて、慣れ親しんできていますよね。昔は油圧などでいろいろな部品を動かさないといけなかったから、必然的に最適なあのような形になっている。ただ今や電子制御で動かすことができる。ということは、インターフェースを変えられるわけです。例えば、今のスマートフォンのように、誰もが触っているうちに理解できるようなものを、モビリティにおいても実現できるのではないか? そうした画期的なインターフェースがモビリティで生まれれば、自然に安全な運転ができて、さらには免許が要らなくなるかもしれない。新たな愉しみやワクワクが創出できるかもしれない。そういう部分を生み出していくことで、産業振興につながっていくのではないでしょうか。



—— モビリティを街で活用する上で必要な観点は?


その土地にあった街づくりをしていかないといけない。表層的に先行事例を真似て、コミュニティバスなどの公共交通を用意するだけでなく、そもそもその街のどこを強化するために走らせるのか?ということを予め設計しておく必要があるでしょうね。

 

私たちは、今まで集団で住んでいたのを、個人で住めるようにしてしまった。もともと日本人は土地に愛着を感じる国民性を持ち、地域に自然なつながりがあったものが遮断されてしまったわけです。でも私たちは一人では生きていけないわけで、一度バラバラになったものを繋ぎ合わせたいと思っているはず。一方でコミュニケーション能力は衰えているわけで、誰かとつながれるチャンスを街の中にどうデザインできるかどうかが大切ではないでしょうか?


—— 本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 

プロフィール

 

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深谷 信介
株式会社博報堂 次世代電動生活ラボ リーダー、名古屋大学グリーンモビリティ連携研究センター 招へい教員

1963年石川県金沢生まれ。慶應義塾大学卒。メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシーなどを経て、1998年博報堂入社。マーケティング部門にて、担当得意先の事業戦略・マーケティング戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のソリューション業務やソーシャルテーマ型ビジネス開発に携わる。広告・宣伝・販売促進等のコミュニケーション領域を核に、コンサルティング・マーケティング領域からクリエイティブ領域に至る幅広い職務を、クライアント・広告会社の双方にて、グローバルで経験し現在に至る。

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