人と街を育むスローモビリティ

QUOMO運営メンバー 株式会社グラディエ モビリティデザイナー 磯村歩
2014.3.31

 

つくば市は「つくばモビリティロボット実験特区」として認定(平成23年3月25日付)され、同市内の特区エリアにおけるモビリティロボットの公道実験を進めている。本サイトにも同市 大久保さんのインタビュー(※)の中でセグウェイツアーの実証実験について取り上げたが、それ以降、大学生によるセグウェイ活用や、警察学校でのセグウェイ体験会、そしてセグウェイツアーの有料サービス展開など地域への浸透が進んでいる。本コラムでは、それに関わる“人の気持ちの変化”に焦点をあてながら、どのように地域に拡がっていったかをみていきたい。

(※)スローモビリティによる街づくり
つくば市 国際戦略総合特区推進部 科学技術振興課 主査 大久保剛史さん
http://quomo.jp/toprunner/interview01.html

車の運転もやさしくなった。


セグウェイツアーのガイドをする宮本さん

2013年4月、大久保さんの部署の業務拡大に伴い、宮本さんと高橋さんという新たなメンバーが加わった。宮本さんは以前食品工場で製造オペレーターとして働き、高橋さんはIT関係の会社で働いていたという。そして、二人とも同市への転職をきっかけにセグウェイツアーのサポートをすることとなった。

宮本さんのセグウェイに乗った第一印象は“足の一部になったような感覚”と言い、高橋さんは“楽しいの一言につきる”とのこと。以降、二人はツアーをサポートする中で様々な気持ちの変化に気づいていくことになる。

セグウェイツアーは車道ではなく、主に歩道を走行する。高橋さんは時折すごいスピードで侵入してくる自転車のマナーの悪さに辟易する。歩行と同程度の速度で移動するセグウェイは、歩行者との距離が近く、自転車に乗っている時にはわからない“歩行者が何を感じているのか?”という感覚が伝わってくる。そして、セグウェイで歩行者の横を通り抜けるときのスピードと距離に気を使うようになるなど、歩行者や自転車など他者への関心が生まれて自然に譲り合うようになったという。さらに高橋さんは「車の運転もやさしくなりました」ともいう。

また、高橋さんは「今までつくば市のことを知っているようで知らなかった」とも。ツアーを運用する中で、歩道の整備が行き届いていることや「こんな身近に、こんなに紅葉がキレイなところがあったんだ」など街の魅力を再発見したという。宮本さんも「電柱って歩道に埋まってたんだ」などのちょっとした気づきに加え、ツアーをガイドする上で「もう少し自分自身でも街のことをいろいろ調べて、より多くのことを伝えたい」と思うようになったという。街に対する関心が生まれ、さらに理解を深めるようになった。

ツアー参加者から「楽しかった!」というコメントを頂き、素直に嬉しく感じた。最初は緊張していた高齢の方が、サポートによって徐々に柔らかい表情に変わっていく様や、参加者同士が仲良くなって「ご飯でも一緒にいこうよ!」と新たなコミュニティが生まれる瞬間に立ち会う時は喜びもひとしおだったという。セグウェイツアーというのは、単に街を周遊するだけではない“何か特別な体験がそこにある”と思ったという。

「普通のバスツアーだと、こうはならないと思います。最初は戸惑いながらも練習しながらうまくなっていって、互いに拍手しあって褒めあって、歩行者への配慮など交通マナーに関する気づき、そしてセグウェイに乗ることの純粋な楽しさ。こうしたいろんな体験によって参加者同士が徐々に打解けていくのだと思います」と宮本さんは言う。セグウェイツアーの中には、人が共感しあえるストーリーがあるようだ。

インストラクターを担った本人たちにも徐々に気持ちの変化が訪れる。

宮本さんにおいては「以前の仕事は機械が相手だったので、人前にでるとガチガチになってたけど、ガイドした時の相手の喜んでくれた反応を見ているうちに、人に対する接し方が変わってきたように思います。街で気軽にあいさつを交わすようにもなりました」という。最近、千葉県柏市でセグウェイツアーを運営する「柏の葉セグウェイクラブ」(※)にも入会し、「この前もセグウェイツアーのサポートに行ってきたんですよ。最初は不安がっていた70歳くらいのおばあちゃんが、ツアーが終わったら喜んでくれて嬉しかったな」と言う。家族からも「最近、変わったね」と言われるようになったそうだ。

高橋さんにおいても、「そもそも自分を中心に物事を考えなくなったように思います。周りに気づかい、やさしく接しようとするようになったかも」と言い、セグウェイという繊細なモビリティを扱うようになったことでホスピタリティが高まったようだ。参加者の反応によって自分たちも触発され、人への関わり方が変わってきたように思える。

(※)柏の葉セグウェイクラブ
https://sites.google.com/site/kasegwayclub/

人をつなげる触媒


警察学校でインストラクターをする高橋さん

セグウェイの世界最大のユーザーは警察官だという。主にパトロールで活用されているセグウェイは、巡回エリアの拡大と効率化に加え、地域住民とのコミュニケーションが生まれるなど社会的効用が生まれている。こうしたモビリティの可能性についての理解を深めるため、茨城県警警察学校の主催による若手警察官向けセグウェイ試乗会が開催された。宮本さんと高橋さんもそのサポートに。

宮本さんは「皆さん最初はとても緊張していましたが、セグウェイにのると表情がガラリと変わって試乗会の雰囲気が一気に和やかになります」。新しい移動体験は誰しも興味があるもの、そして単なる異動手段にとどまらず“楽しい”という感覚の共有は、場を和ますのに十分な効果をあげたという。因に同警察学校の教官も初めての体験で、こうなると生徒と教官という上下関係が一気に取り払われて関係性がフラットに。お二人はセグウェイの持つ“人をつなげる”効果を実感したといいます。

セグウェイは“コミュニケーションツール”とも呼ばれています。例えば、東京オリンピックの開催に合わせ、セグウェイを活用したパトロールを広げていってはどうだろう。同オリンピックの多くの競技会場は選手村から半径8km圏内に設置されるというが、こうした環境下においてセグウェイのようなパーソナルモビリティは非常に有効なはずだ。そして、世界中から訪れる選手や観光客と日本人とをつなげるコミュニケーション触媒にもなりうるだろう。

心の変化の広がり


筑波学院大学学生による地域イベントでのセグウェイ試乗会

「筑波学院大学」では学生の地域貢献活動「Off Campus Project(以下、OCP)」(※)としてセグウェイの活用を進めている。宮本さんと高橋さんもその活動のサポートを担った。最初の導入時こそ、大学生の行動に注意喚起が必要だったようだが、活用を進めるうちに学生の心に変化が生まれてきたという。普段の学生たちは道幅一杯に自転車で通学していたこともあったが、自転車とは異なるセグウェイという別のモビリティに乗ると、自転車のマナーがいかに大切だということに気づいていったという。そして点字ブロックが駐輪自転車などで塞がれた状況をみると、視覚障害者の不便さのイメージが湧いてきたことも。自らの行動を振り返ることにつながった。

またセグウェイを活用した小学生の下校の見守り活動も実施しているというが、ここでもセグウェイがOCPにおける学生のモチベーション向上につながったという。単に“歩行者”として見守りをすると、子どもたちはそのまま通り過ぎてしまうのだが、セグウェイに乗って見守りをしていると「それ、なあに?」と声をかけられる。コミュニケーションが生まれる。そして、“見守り”という一定の責任を負うことが、その態度や取り組む姿勢にも好影響を与えたという。

やがて、地域の高校やPTA、更にはお祭りなどでセグウェイ試乗会を開催してくれないかという依頼が舞い込むようになった。同大学学長の発案で始まったセグウェイ活用だが、セグウェイインストラクターという“人に教える行為”は学生にとって貴重な経験だという。そして大学と地域とのつながりも生み出す結果をもたらした。

(※)・OCP活動報告 vol.97 セグウェイプロジェクト進行中(筑波学院大学)
    http://www.tsukuba-g.ac.jp/ocp/news/ocpvol-97/
   ・大学生がセグウェイで小学校児童の安全な下校を支援、筑波学院大学(リセマム)
    http://resemom.jp/article/2013/10/25/15742.html
   ・筑波学院大学がセグウェイSegway 活用で小学校児童の下校時支援活動(大学プレスセンター)
    http://www.u-presscenter.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=5835#.Uy7qplzbzYA

体験の共感、そして観光事業へ

2013年のクリスマス。セグウェイツアーを体験した有志が“サンタクロース”に扮して子どもたちにお菓子のプレゼントをするイベントを行った。セグウェイによる人をつなげる効果や、乗ることの楽しさを共感している仲間たちで、“軽いノリ”で実施したのだが、地域の反応は上々。そして、のちにこの有志の中から、日本で唯一、公道での有料セグウェイツアーのインストラクターが生まれることになった。2014年4月、「つくば観光コンベンション協会」が「株式会社ジェイティービー」と 提携し、つくば市内でセグウェイツアーを観光事業として運営し、ロボットモビリティの実証実験が新しいフェーズに移行する。


セグウェイシティツアー in つくば http://www.ttca.jp/segway/

モビリティが人と街を育む

 


左からつくば市 大久保主査、高橋さん、宮本さん

本コラムでは宮本さんと高橋さんの気持ちの変遷を辿ったわけだが、セグウェイツアー参加者との喜びの共有、そこから得られる達成感と新たな街の魅力の発見、そしてセグウェイを触媒として様々な地域とのつながりが生まれた。こうした一連のプロセスは、お二人の気持ちの変化を促し、新しい活動に踏み出すきっかけを与えた。モビリティという移動する手段が、その利便性を超え人を育むことにつながった。

お二人の関わり含め、つくば市が進めるモビリティ活用の取組みは、やがて周囲社会に伝播し、学生による地域貢献活動、警察学校のセグウェイ体験、ショッピングセンターでのセグウェイ活用、更には民間ベースによるセグウェイツアーの事業化に結実している。

これは単なるモビリティの活用ではなく、街づくりの過程そのものではないかと思う。街づくりを担うものにとって地域住民との恊働は必須のプロセスだが、それは導入する施設や設備が継続的に活用されるための大切な要件だ。地域住民の想いが、そのプロセスに入ってこそ活用は促される。モビリティの社会実装というのも、こうした観点を大切にすることでより良いモビリティの活用につながるはずだ。モビリティが人と街を育み、やがてそのモビリティが街の誇りにもなっていく。QUOMOではそういう取組みを進めていきたいと思うのである。

QUOMO運営メンバー
株式会社グラディエ モビリティデザイナー 磯村歩

ページ先頭へ