地域を救う、超小型モビリティ

株式会社モビリシティ 代表取締役、モビリティジャーナリスト、グッドデザイン賞審査委員 : 森口将之
2013.06.19

 

社会課題解決に向けた新制度

2013年1月、国土交通省は「超小型モビリティ認定制度」を発表した。自転車より大きく、軽自動車より小さい、まったく新しい乗り物のカテゴリーが作られるという画期的な出来事が実現したのである。地球環境、高齢化、過疎化など、近年の日本に降り掛かる諸問題を、モビリティの分野から解決しようというとき、それに適した車両が存在しなかった。そこで国交省では2010年度から超小型モビリティの実証実験を開始すると、2年後にガイドライン発表、パブリックコメント募集と矢継ぎ早に歩みを進め、制度決定に至ったのである。国の政策としては異例の急ピッチでの決定は、それだけ問題が切迫していることを示している。
既存の車両とは大きさや速さが異なる乗り物が加わることを、不安視する人がいるかもしれない。しかし世界に目を広げれば、心配無用であることが分かる。超小型モビリティは、日本独自の規格ではない。国交省が定めた制度こそ我が国独自のものであるが、似たような車両は欧米やアジアなど世界各地で作られ、走っている。この分野においては、日本は後進国なのである。
中でもこの種のモビリティに積極的に取り組んできたのは、自動車が誕生した地でもあるヨーロッパだ。彼の地では大戦や恐慌などを要因として社会が退潮傾向に差し掛かるたびに、大衆車とスクーターの間に位置する3/4輪車が繁殖しては消滅するという歴史を繰り返してきた。しかし1973年のオイルショックは違った。フランスを中心に、現地ではクワドリシクル=4輪自転車と呼ばれた超小型モビリティが出現すると、まもなく欧州統一規格が定められ、本格的な普及が始まったのである。

 

欧州統一規格クワドリシクル(4輪自転車)の一つ「エクサム」と「リジェ」

シェアリングが進む超小型モビリティ


仏ルノーの超小型モビリティ「トゥイジー」

ヨーロッパの超小型モビリティを見ると、我が国と異なる点がいくつか見られる。日本では国交省の認定制度発表に合わせて、トヨタグループのトヨタ車体、日産自動車、本田技研工業が車両を発表している。ところが欧州では大手自動車メーカーの参入が皆無に近く、超小型モビリティ専業のベンチャー企業が主役となっている。
2012年、日産自動車とアライアンスを組む仏ルノーが「トゥイジー」を発売した。我が国の実証実験で使われた日産「ニュー・モビリティ・コンセプト」と同型車であるが、これはレアケースである。1998年にダイムラーが発表したスマートは、高速道路が走行可能なことなどから、欧州では超小型モビリティにはカテゴライズされていない。


「スマート」を用いたカーシェアリング「car2go」利用者は2013年1月時点で27.5万人(写真:Daimler)

大手メーカーの参入が少ない理由は、市場が限定されているからである。仏主要メーカー6社が加盟する「ヨーロピアン・クワドリシクル・リーグ」の統計によれば、欧州全体での販売台数は年間約3.5万台に過ぎない。トヨタ・プリウスは日本国内だけでひと月に同じ台数を売ったことがある。超小型モビリティがニッチな市場であることが分かろう。

生産台数が限られるので、当然ながら販売価格は上昇する。フランスでの価格は1万ユーロ前後で、日産のコンパクトカー「マーチ(現地名マイクラ)」に近い。これでは大手メーカーの量産車に太刀打ちできない。しかし超小型モビリティは、環境対策や高齢化対策など、社会の要求から生まれた車両であり、市場原理に委ねるべきではない。ゆえに販売よりも共同利用、つまりシェアリングが重要になる。

地産地消型モビリティで地域活性化


「ミア(mia)」の工場

 

すでにフランスでは、ベンチャー企業の超小型モビリティを利用した、カーシェアリングの実例がいくつか見られる。そのひとつが西部ポワトー・シャラント地方で今年からサービスを開始した「レジオンリブ(régionlib)」だ。
使用される超小型モビリティ「ミア(mia)」は3人乗りの電気自動車で、2011年より同じポワトー・シャラント地方にある工場で生産されている。つまり地産地消型モビリティと言える。
レジオンリブの運営は、ポワトー・シャラント地方、ラ・ロシェルやニオールなどの都市が合同で設立した地方公共会社(SPL)によって行われている。地方公共団体などが地方運輸局に申請し、認定を受けることで走行が可能になるという、我が国の超小型モビリティ認定制度を思わせる体制だ。

 


3人乗りの電気自動車「ミア(mia)」

 


2人乗りの電気自動車「F-シティ」

 

一方フランス東部フランシュ・コンテ地方の都市モンベリアールでは、「ア!ラ・カルト(AH! La carte)」という名前の交通系プリペイドカードを2011年から展開しているが、このカードではバス、サイクルシェアリングの他、超小型モビリティ「F-シティ」によるカーシェアリングの使用も可能になっている点が目を引く。
F-シティはFAMオートモビル社が2009年から生産している2人乗りの電気自動車で、同じフランシュ・コンテ地方に本拠を置く。こちらもまた地産地消だ。運営はスイスに本社を置くトゥーアップというモビリティマネジメント企業が行っている。

 


ツェルマットの電気自動車(写真:Zermatt Tourism)

スイスと言えば、アルプス山麓の観光都市ツェルマットの取り組みも見逃せない。ここでは環境保護の観点から内燃機関自動車の乗り入れは禁止され、村内の交通は鉄道、馬車、電気自動車に限られている。しかもこの電気自動車は村内の工場で作られているのだ。

 

 

前述したように、今回制定された超小型モビリティ認定制度は、地方単位での申請・認定という仕組みになっている。だからこそ欧州に倣い、その土地のものづくり技術を生かした車両によるシェアリングが各地で展開されれば、産業から観光まで多方面での地域活性化につながるのではないかと期待している。

 

株式会社モビリシティ 代表取締役、モビリティジャーナリスト、グッドデザイン賞審査委員
森口将之

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